ボーカリストの中には、ピッチコントロールでお困りの人も多いはず。
その要因は様々ですが、主に身体が楽器として上手く機能してないことに加え、正確なピッチ感が養われずにいることで、それらはやはり、突き詰めれば、きちんとしたトレーニングの積み重ねを行わないことが原因です。
トレーニングをしっかり継続するということは大前提ですが、ピッチで悩む皆さんは、なるべく鍵盤楽器を使って、丁寧にトレーニングをしましょう。
それぞれの症状や、個々の特性に対する処方は1つではないですが、鍵盤楽器を使うということは全員におすすめ出来ることです。
とくに初心者においては、ピッチ感を養うための重要なポイントです。
主に現代音楽で使用される12平均律というものは、人間が近代までに定めた音程の規格の様なもので、持って生まれてくるような感覚ではなく、それぞれが養い磨いて、身体に植え付けていくものです。
そして、現代音楽で言うところのピッチを定める力というのは、そんな12平均律を基にした楽器から生み出されるコードに対して自分が出すべき音を導き、コードに協和させる能力のこと。
ですから、完璧に調律された楽器の音程やコードを用いてトレーニングするということが大切です。
アマチュアの場合、ギターで練習する人も多いようですが、アマチュアのギターはメンテナンスやチューニングも雑で狂っていることも多く、また、フレットを押さえる演奏の具合や技量によってもピッチが若干でも変わりますから、正確なピッチ感をつくるための伴奏楽器・補助楽器としてはおすすめしません。
作曲においては、リズム楽器としての一面を持ったギターからの発想や、ギターリフも引き出せたりと利点はあるのですが、ボイストレーニングでギターを使うというのは、僕はあまり聞いた事がありません。
ボイストレーニングでは完璧に調律された鍵盤楽器を用いる事が一般的です。
細かなピッチの狂いを認識できるようになれば、あえてアカペラの練習などでも磨かれる部分もありますが、音感が未熟な初心者においては、正確なピッチが出る楽器の併用が音感形成の面において重要となります。
また、鍵盤は正確なピッチ感の養成に役立つだけでなく、コードもギターの指板ポジションに比べて視認しやすく、和声的な理解も優しく深まるはずですから、音楽理論や作曲・アレンジにも便利な、おすすめの楽器です。
ただし、安物の鍵盤はピッチが甘く、ズレていたりするので、注意が必要。
比較的メンテナンスを必要としない有名メーカーの電子ピアノやキーボードがおすすめです。
ぜひ、鍵盤を使用して、ピッチの精度を上げられるようにしていきましょう。
[補足]
プロアーティストを見ても分かるように、若い人などはまだまだ経験・練習不足から来る精度の甘さ、歌唱の未熟さを感じることが多いです。
また、歳をとった人は肉体の衰えやトレーニング不足からくる精度の甘さや歌唱力不足を感じられることが多いもの。
一流の芸や技というものは、「水面に指で文字を書くようなもの」とは藤山寛美さんのお言葉ですが、それほど容易く作られるものではなく、絶えまない稽古と影なる鍛錬の賜物です。
声やピッチ、表現力といった、歌唱を安定させ維持し続ける能力、刻々と変化する肉体と感覚を常に一致させる為には、日々の練習を怠らずに重ね合わせるしかありません。
鍵盤の使用で練習の質を高めるとともに、日々の鍛錬の継続を心がけましょう。