声やピッチが安定しないなど多くの問題は、たいてい声帯の踏ん張りと呼気のバランスの不均衡から起こることも多いのですが、「喉声」も簡単に言えば、喉に力が入り過ぎて、呼気への抵抗が強く、絞り声として聞き苦しさが強く現れてしまうことです。
しかし、この現象は喉の力が強い人に起こることも多く、名ボーカリストとなる資質や可能性を持った人材、『宝石となる原石』でもあると、僕は考えています。
「喉の力」って、実はすごく貴重です。
普段の呼吸では、24時間絶え間なく肺から口や鼻へ、その間にある声門を通過しているのに声が出ませんよね。
声というのは、呼気が声帯にぶつかって、声帯が振動を起こして声の原音が生まれます。
基本、加齢とともに筋力が衰えて、身体の筋肉はしだいに痩せていきます。
それは声を作るための声帯や声帯周りの筋肉群も決して例外ではありません。
ギターの弦で言えば、ヘヴィゲージからライトゲージになってしまい、テンションさえ失っていくようなもの。
だから、年配の方の声は声帯が痩せるぶん、高域は出る事もあるのですが、貧弱で線の細い声や、女性はホルモンの関係などで男性化してキーが低くなり、高域では裏声となることも多く、男女共にパワフルでドラマティックな高域を作れる人は、歳をとるにつれて少なくなってしまうのが一般的です。
昔、活躍されていて復帰されるアーティストなどを見ても、当時歌っていた楽曲でもキーを下げていたり、地声で張る所を裏声やミックスで逃げる事も多く見受けられますよね。
それらの多くの原因は、やはり加齢やトレーニング不足のせいで、声を作る為の様々な筋力が衰えてしまっているからです。
エアロスミスのスティーヴン・タイラーのように、高齢となっても若い人に負けない熱量のある声や、高いレベルの歌唱表現を維持出来る人もいますが、一般的には高齢になるにつれ、声や歌唱は貧弱になり、ピッチコントロールや滑舌などの基礎スキルまで落ちてしまうものです。
また例えば、重病に臥している人は声が弱々しく、病状などを発表するTV会見などを見ていても、声から病状の深刻度まで感じられます。
発声、力強い声というのは、体力や喉の力が必要だとわかりますね。
人も生き物である以上、加齢からは逃れられませんが、衰えるスピードは歌い手の意識やトレーニングなどで変わってきます。
ここにもボイストレーニングの大きな意義があるのです。
基礎能力や身体や声の衰えを感じない若い頃には、これらの重要性を感じにくいので、歌は天性のものだとか、トレーニングを軽んじたり怠慢になりやすいものですが、間違いなく喉や声は作っていけます。
極論、声帯を摘出してしまえば普通には歌えません。
何といっても声帯は原音を作ります。
その声帯や喉の強さ、身体の強さは『宝石となる原石』。
「喉声」の症状は「喉の力」があるというアドバンテージかもしれません。
少なくとも、僕はそう思っています。
「喉声」だと言われている人も、気を落とさずにレッスンに励んで、原石を磨き上げてほしいですね。